一周忌

坊さんのありがたい説教によると、
「冥福を祈ることはない。仏様は極楽浄土にいるのだから。」
それなら、きっと面白おかしく暮らしているだろう。


婆さんは深夜のスナック遊びの帰りにバイクに吹っ飛ばされた。
脳内に出血して、肺が破れて、腸管から腹腔内にうんこをぶちまけ、
頭蓋骨と骨盤とろっ骨と両足、片手を骨折していた。
集中治療室に入った婆さんについての説明を早朝の待合室で叔父と母と僕は待っていた。
医者はボロボロの婆さんから手が離せず、いつどんな話をしにくるかわからない。
そんな状況では数分間を数時間にも感じる、なんてよく聞く話だ。
でも、1時間ぐらいだろうか? あっという間だった。
叔父がいたからだ。叔父はいつも緊張した場面で笑いを取ろうとする。
葬式で経を読む坊さんの真似をして、周囲が笑いをこらえきれなくなり、
葬式の最中に、坊さんからありがたくない説教をくらったという逸話もある。
そもそも、自分の母親の一大事に着物に雪駄という井出達で現れたこともおかしい。
叔父は瀕死の婆さんをネタにして、僕らを笑わせ3人で目を腫らしながらも大笑いしていた。

あれから数年がたち、僕らは叔父が坊さんを怒らせた寺で経を唱和した。
経には、抑揚や長く伸ばすところがあり、経が書いてある冊子を見ても、
坊さんに合わせるのはなかなか難しい。だから、しょっちゅう唱和がずれる。
みんなクソ真面目にやってる様子と相まって、何だか可笑しい。
僕はツボに入ってしまい、吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
あー、叔父はこれを使って笑いを取ったんだろうなぁ、と僕は思った。


叔父の名前が書かれた墓には、待合室でネタにされた婆さんの名前も赤い字で書いてある。
その墓に線香と花を供えて水をかけたあと、彼の残した家族と和牛をたらふく食べた。


来年も三回忌のあとの食事を楽しみにしています。
僕は叔父が大好きです。