教師の立場で、生徒の夢を全否定したことがある。

夢を全否定された気分に陥った。

じゃああなたは、次の試験で数学満点をとれるのね? その程度とれないなら無理なレベルなのよ

と言った教師は、言われた生徒(id:rosylilly)がもし筑波大に受かったら、「恩師」扱いだ。

私は教師の立場で、生徒の夢を全否定したことがある。
その結果、「恩師」になった。


塾講師をしていた時の話。
以下、生徒を便宜的気に冷蔵庫*1と呼ぶことにする。


冷蔵庫を受けもつことになったのは浪人一年目の4月。直近の全国模試で偏差値が3,40台といったレベル。教えていてもあまりキレるタイプではなかった。塾への報告書はオブラートに包んで「応用力のつきにくいタイプの生徒さんです。」と書いた。そんな冷蔵庫が言い出したのは「どこでも良いから国立の医学部に行きたい。」ということだった。

冷蔵庫は勉強する習慣を持っていなかった。小学校から、四角い背中を作り上げるべく運動ばかりしていたからだ。親は芸術家で机に向かって勉強する、ということに対して理解が少なかった。*2

そんな冷蔵庫が、どういうわけか「医者になりたい」と決意し勉強する気になったわけだ。私はとりあえず、一か月様子を見て、普通の量の宿題をやらせていた。しかし、勉強する習慣のない彼は、やってことも多々あった。

1か月して、私は芽の出そうもない冷蔵庫に説教をすることにした。

まず彼の夢を大いに語らせた。
 「なぜ医者になりたいか」
 「どんな医者になりないのか」
 「どんな車に乗りたいのか?*3
 「どんな看護婦に乗り(以下略)」


で、一通り語ってもらった後で訊いた。以下のような主旨のことだが、思い出すと恥ずかしくなる。
私「本当にやりたいことなの?」
冷「もちろんです」
私「じゃあ、なんでやってないの?やりたいことがあるなら、そのために必要な努力は既に始めてるはずだよね?でも、宿題すらやってない。宿題ってのは最低限やるべきことで、やりたいことがあったらプラスアルファでやって当然だよ。医者になりたいなら、生物や化学が必要なのは理解できるよね? それを現時点でやっていないということは、本当は医者になりたいわけじゃないんじゃないの?楽して金持ちになりたいだけじゃないの?」
冷「でも。。。」
(中略) 実はもっと追い詰めたけど。その時の私はイライラしてたんだと思う。


冷蔵庫は泣きそうになった。一方、私はというと、、、
「あちゃー、やりすぎた。まっ、親からクレーム来ても、もっと時給の高い別の塾でも働いてるからいいか。」
とか考えていた。


そこからが冷蔵庫は普通じゃなかった。反骨心というやつだろう。


まず、冷蔵庫は直観が働くタイプではなかったので、機械になってもらことにした。
例えば、因数分解の問題だけを集められるだけ集めて、宿題にした。全部やるのに一日4時間×2週間かかったと言っていた。
その甲斐あって、どんな因数分解も問題を見た瞬間に解法が思いつく機械的な計算力を手に入れた。後々、微積分で大活躍する能力だ。


あとは市販の問題集を適当に選んで「はい、これ1か月!」とか言って渡し続けた。全部やってこい、という意味だ。
そんな感じで、私はどんどん宿題を出し、冷蔵庫は馬鹿正直に全部やった。
電車では英単帳をめくり、ホームを歩きながらそれをipodで聴いていた。便所の壁には「覚えろ!」と言った化学式を張り巡らしたそうだ。
(中略)
冷蔵庫は年末の模試では、数学の偏差値が2倍になり、総合判定も「B」を獲得した。
それでもお互い手を緩めなかった。冷蔵庫は機械のように勉強こなし続けた。


結局、冷蔵庫は某国立大の医学部に受かり、今は学生をやってる。*4
おかげで冷蔵庫の両親から私に浅草「今半」の肉と、5万円の入った封筒が送られてきた。
おまけに、塾では時給が跳ね上がった。授業の依頼も増えた。

テキトーなアドバイスと、いい加減な指導がまぐれで当たったおかげで「恩師」扱いだ。私に善意があったわけじゃないのにね。


それさておき、
「やりたいことがあるなら、そのために必要な努力は既に始めてるはずだよね?」
今の自分にこそ、聞かせてやりたい言葉だ。ああ、耳が痛い。

*1:後ろから見ると四角くて、冷蔵庫のようだった。

*2:一つのことに打ち込む、ということの大切さはよくわかっていて、受験前には支えになってくれていたが。

*3:ポルシェが良い!って言ってた。ベンツやBMWはおっさんくさいから、ということだった。

*4:死体はくっさいよ、とか言ってた。